運用報告書とは、購入後の投資信託がどう運用され、その結果どうなったかを受益者に知らせる決算ごとの報告書です。受益者に必ず届く「交付運用報告書」と、運用会社のサイトなどで提供される「全体版」の2種類があります。買ったあとに定期的に届く成績表は、実質これ1本。それなのに封も切られずに処分される確率が、投資信託の書類のなかで最も高い。どこを見れば運用会社の説明の癖が読めるのか、6区分の順に並べ直します。なお本記事は一般的な仕組みの解説であり、個別商品の売買を勧めるものではありません。
運用報告書はいつ届くのか?
決算のたびに届きます。資産運用業協会の説明では、運用報告書は原則的に投資信託の決算を迎えるごとに作成され、投資信託を保有している受益者に交付されます。年1回決算のファンドを持っていれば、年1回。それだけです。
ここに例外がひとつ。毎月決算型のように短い周期で決算するファンドは、そのつど作っていたら年12回になります。実際はそうなっていません。
短期間で決算を行う投資信託(計算期間が6ヶ月未満の投資信託)の運用報告書の作成・交付のタイミングは、6ヶ月に1度と法令に定められています。
資産運用業協会「運用報告書」より
毎月分配型を持っている人にとって、これは押さえておく価値のある非対称です。分配金の通知は毎月来る。運用の中身の報告は半年に1度しか来ない。受け取る紙の枚数だけ見れば、分配のほうが6倍多いわけです。毎月届く入金のお知らせで運用が順調だと感じてしまう構造については、毎月分配型の裏側でも触れました。
分配の連絡は毎月、運用の報告は半年に1度。
交付運用報告書と全体版は何が違うのか?
交付運用報告書は、受益者に必ず交付される運用報告書で、運用報告書に記載すべき項目のうち重要な項目が記載されています。手元に届くのはこちらです。もう一方の全体版は、投資信託約款で電磁的方法により提供する旨を定めている場合、運用会社のホームページに掲載するなど受益者にとってアクセスしやすい方法で提供すれば交付したものとみなされます。
つまり全体版は、原則として自分で取りに行く前提の書類です。ただし、閲覧しかできないわけではありません。同協会は請求すると必ず交付してもらえると案内しています。この「請求すると必ず交付してもらえる」という一文を知っている個人投資家に、窓口時代ほとんど会ったことがありません。
| 交付運用報告書 | 運用報告書(全体版) | |
|---|---|---|
| 届き方 | 受益者に必ず交付される | 約款の定めがあればホームページ掲載等で交付とみなされる |
| 中身 | 記載すべき項目のうち重要な項目 | 記載すべき事項の全体 |
| 入手方法 | 販売会社を通じて届く | 運用会社のサイトで閲覧、請求すれば交付 |
この2本立てになったのは2014年12月以降に決算を迎えた投資信託からで、法令改正に伴う変更です。分量を絞って読みやすくする趣旨の改正でした。読みやすくなった代わりに、細かい数字は全体版へ移った。読者側から見れば、簡易版が標準になったということでもあります。
運用経過の説明で最初に見る数字はどれか?
1万口当たりの費用明細です。(1)運用経過の説明には、基準価額などの推移、基準価額の主な変動要因、1万口当たりの費用明細、最近5年間の基準価額などの推移、投資環境、ポートフォリオ、ベンチマークとの差異、分配金の表示、が順に並びます。この並びのなかで、多くの読者が素通りするのが費用明細です。
目論見書に書いてあるのは料率。運用報告書に載るのは、その期間に実際に差し引かれた金額です。率と金額では、刺さり方がまるで違います。信託報酬1.65%と読んでも財布は痛みませんが、1万口当たり165円と書かれた表を見た瞬間に顔つきが変わったお客様を、窓口に立っていた頃に何度も見ました。保有金額に置き換えれば、自分がその期に払った実額が出ます。
費用明細で確認する2点
ひとつは、信託報酬以外の項目がどれだけ乗っているか。売買委託手数料や有価証券取引税、保管費用などは信託報酬とは別枠で基準価額から差し引かれます。もうひとつは、その合計が期中のリターンに対してどの程度の比率だったか。上昇した期は気になりませんが、横ばいや下落の期に同じ額が引かれ続けている事実は、この表を見ないと実感できません。手数料が3層構造になっている点は投資信託のコストの裏側で分解しています。
「今後の運用方針」から何が読めるのか?
期待するほどのことは読めません。(2)今後の運用方針には、組入資産毎に、目論見書に記載された今後の運用方針が文章で簡潔に示されます。目論見書に書いてある方針が、そのまま文章になって出てくる区分です。
では読む価値がないのか。そうでもありません。読み方を変えればいい。この欄と(1)の「基準価額の主な変動要因」を並べて読むと、運用会社の説明の型が見えてきます。下落した期の変動要因には、外部環境の記述が増える傾向があります。金利、地政学、需給。それ自体は事実の説明であって、嘘ではありません。ただし同じ会社の上昇した期の記述と読み比べると、上昇時には運用判断の話が増え、下落時には環境の話が増える、という配分の癖が出ることがあります。
2期分、3期分と並べて読む。1通だけでは癖は見えません。同じファンドの運用報告書を時系列で並べたときに初めて、文章の重心がどちらに寄っているかが読めます。
お知らせ欄はなぜ読み飛ばされるのか?
短いからです。(3)お知らせには、当期中において、約款の内容の変更や運用体制の変更など、委託会社が重要と判断した変更などがあった場合にその内容が記載されます。数行で終わることも珍しくありません。
その数行に何が入りうるか。約款の変更、運用体制の変更。保有者にとっての意味は小さくないはずのものが、淡々と1行で置かれています。変更がなかった旨だけが記されている期のほうが多いため、読む習慣がつかない。習慣がつかないから、変更があった期も同じ速度で飛ばしてしまう。
重要と判断された変更ほど、短い一文で置かれる。
ここは全区分のなかで最もコストパフォーマンスが高い読みどころです。所要10秒。何も書かれていなければ、それで終わりでいい。
騰落率の比較とデータ欄は何を示しているのか?
(5)代表的な資産クラスとの騰落率の比較は、参考情報として、当該投資信託の交付目論見書に記載の「代表的な資産クラスとの騰落率の比較」について最新のデータが示されるものです。並んでいるのは国内株式や先進国債券といった資産クラスの騰落率であって、そのファンド自身の成績が資産クラスと並べて評価されているわけではありません。
ここを取り違えると、比較表を見て「うちのファンドは中位くらいか」と読んでしまいます。位置づけはあくまで参考情報。自分のファンドの成績を測りたいなら、(1)に並ぶベンチマークとの差異を見るほうが直接的です。
(6)当該投資信託のデータには、組入資産の内容、純資産など、組入上位ファンドの概要がグラフや表で示されます。純資産総額の推移は、前期と比べる。減り続けているファンドは、繰上償還の議論が視野に入ることがあります。組入銘柄が募集時の説明と食い違っていないかも、この欄で照合できます。
- 純資産総額を前期・前々期と並べ、減少が続いていないか確認する
- 組入上位の資産や通貨が、購入時に聞いた説明と一致しているか照合する
- (4)当該投資信託の概要で、信託期間と分配方針が変わっていないか見る
5分で読むならどの順番か?
届いた紙を全部読む必要はありません。時間をかけずに要点だけ拾うなら、記載の順ではなく次の順で見ると効率がいいはずです。
- (3)お知らせ——約款や運用体制の変更の有無を確認する。所要10秒。ここに記載がある期だけ、後段を丁寧に読む。
- (1)1万口当たりの費用明細——その期に実際に差し引かれた金額を見る。保有口数を掛ければ自分の負担額が出ます。
- (1)基準価額などの推移と主な変動要因——動いた理由の説明が、運用判断と外部環境のどちらに寄っているかを読む。
- (6)当該投資信託のデータ——純資産の増減と組入上位を確認する。説明と実態のズレはここに出ます。
細かい数字が必要になったら、全体版を請求する。その権利は最初から付いています。長期・積立・分散の考え方そのものは金融庁のNISA特設ウェブサイト(資産形成の基本)でも整理されていますが、持ち続けるかどうかの判断材料は、半年か1年に1度届くこの紙のなかにあります。封を切るところからでしょう。
- Q. 運用報告書はどのくらいの頻度で届きますか?
- 原則的に投資信託の決算を迎えるごとに作成され、保有している受益者に交付されます。ただし毎月決算型のように計算期間が6ヶ月未満の投資信託は、作成・交付のタイミングが6ヶ月に1度と法令に定められています。年1回決算なら年1回、毎月決算型なら年2回が目安です。
- Q. 交付運用報告書と全体版の違いは何ですか?
- 交付運用報告書は受益者に必ず交付される運用報告書で、記載すべき項目のうち重要な項目が載ります。全体版は、投資信託約款で電磁的方法による提供を定めている場合、運用会社のホームページに掲載するなどアクセスしやすい方法で提供すれば交付したものとみなされます。請求すると必ず交付してもらえます。
- Q. 交付運用報告書にはどんな項目が載っていますか?
- 原則として(1)運用経過の説明、(2)今後の運用方針、(3)お知らせ、(4)当該投資信託の概要、(5)代表的な資産クラスとの騰落率の比較、(6)当該投資信託のデータ、の6項目が順序に従って記載されます。図表の作り方は運用会社各社の創意工夫に委ねられているため、見た目は会社ごとに異なります。
- Q. 実際に払ったコストはどこを見ればわかりますか?
- (1)運用経過の説明にある「1万口当たりの費用明細」です。目論見書に載る料率と違い、その期間に実際に差し引かれた金額ベースの内訳が並びます。保有口数に応じて自分の負担額を概算できます。
- Q. 運用報告書は昔と変わったのですか?
- 法令改正に伴い、2014年12月以降に決算を迎えた投資信託の運用報告書から「交付運用報告書」と「運用報告書(全体版)」の2種類に変わりました。投資家へは重要な項目が記載された交付運用報告書が販売会社を通じて交付されています。
- 資産運用業協会「運用報告書」:https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/process/report.html
- 資産運用業協会「投資信託のコスト」:https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/costtax/cost.html
- 金融庁 NISA特設ウェブサイト「資産形成の基本」:https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/invest/index.html